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アクセス数 1056  このページの最終更新 2009-12-21 (月) 08:28:25

特別ゼミB 山内担当分 第4回 (流れを組立ててみる(2)〜 問いを立てる+材料を捻り出して(小山田「RPG法」/「ビリヤード法」)アウトラインを膨らます)

「問い」と「アウトライン」 (参照: 戸山田和久「論文の教室」第蕎蓮⊆島茂「勝つための論文の書き方」)

≪問いを立てる≫

論理・論証という道具は手に入った。ではそれだけで論文やレポートを書けるか?

論文・レポートは、必ず「主張」が必要である。単なる事実の羅列やデータの表は 論文・レポートではない。

論文・レポートでは、「主張」があって(それはその論文・レポートの「結論」で あるはずだが)、その主張を論証する(結論を導く)過程が書かれているはずのものである。この論証の部分を構成するのに、前回眺めた論証の技術を使うことになる。

では「主張」はどうやって出てくるのか? 課題レポートの場合「主張」は与えられて いるのだろうか?  否。 主張(結論)を与えて、「その主張を論証せよ」という ようなレポートは、まず存在しない。課題レポートであっても、自分自身が 「主張」を作らなければならない。論文の場合は(課題レポートのような制約が 課せられないのだから)増してや、自分で「主張」を考え出さなければならない。

「主張を考え出す」とは、「問い」とその「答え」を作るということである。
これはどうなっているのだろうか? どうすればこれができるだろうか? などの 「問い」と、それに対する「答え」が、論文・レポートの「主張」となる。
たとえば、有名なWatson-Clickの二重らせんの報告は、「問い」としてDNAの立体構造が どうなっているか、「答え」として二重らせんである、そしてその論証が書かれている。

いかに「問い」を作るか、が論文・レポートのカギになる。自明な問いや、既知の問いでは論文にならないし、かといって、全く解けない問題を問いにしたのでは、答えもないし、論証も出来ない。自分に解ける≪ちょうどよい大きさの問題≫が理想である。

問題をうまく設定できるためには、何が既知であるかを知らなければならない。 対象の分野を調査し、既に何が分かっているかを調べる必要がある。研究論文ではこれを 「先行研究」「研究の背景」などと呼び、紹介のために1つの章を作る。

この調査活動は、実は研究活動のうちのかなりの部分を占めることが多い。分野にも 依るが、既に多くの研究者が足を踏み入れている分野では、先行研究を調査し、 何が分かっているのか、それぞれの既出論文の論証が正しいか、自分の立てようと する「問い」とどういう関係になるのか、などを丁寧に分析する必要がある。

実は、調査活動と、論文・レポートの構想は、並行して進むことが多い。 ある程度調査して「問い」を立てた上で、その問い・答えに対する論証(論文の アウトライン)を構想してゆくうちに、新たな問いに気づいたり、 新たな資料に行き着いて「問い・答え」の構造が変化したりすることが、 大いに考えられる。というよりは、日常茶飯事である。(アウトラインの構成は 次の項で議論する。)

問題の立て方について、「勝つための論文の書き方」鹿島茂(文春新書)では いくつかの面白い議論をしている。鹿島茂氏は仏文学者なので、文系のフランス文学に 近いところでの問題の立て方を考えているが、それでも面白くて参考になる。 「第二回講義」から節タイトルを抜粋してみる。

アウトラインを作る(戸山田和久「論文の教室」第5章)

ここで見てもらいたいのは、

≪例≫ (チャレンジャー号爆発事故)

問いとして、「チャレンジャー号爆発事故からどのような教訓が得られるか」という 課題が出されて、論文(レポート)を書くことになったとする。

チャレンジャー号爆発事故の概要について

ウィキペディア「チャレンジャー号爆発事故」から抜粋
チャレンジャー号爆発事故は、1986年1月28日に起こったスペースシャトル・オービタ、
チャレンジャーの爆発事故である。
チャレンジャーは打ち上げから73秒後に突如爆発、シャトルの各部は空中分解して
大西洋に落下し、クルー7名の全員が死亡した。
打ち上げ当日は気温が氷点下にまで下がり、固体ロケットブースタ内部に使用される
Oリングの凍結で気密性が低下し、これによって高温のガスが漏れ出したことが事故を
引き起こしたと見られている

(以下は、小山田和久「論文の教室」を抜粋、若しくは要約)
事故の概要をざっと調べた結果、最初に次のようなアウトライン(第0版)を考えた。

タイトル(仮)「チャレンジャー号爆発事故はなぜ起こったか」
I. はじめに
 ・ 問題設定
 ・ 各節の内容の概要
II. チャレンジャー号爆発事故の概要と背景
 (1) 事故の概要
 (2) 事故の原因
III. 事故はなぜ防げなかったのか
 (1) 打ち上げ決定に至る意思決定の経緯
 (2) 打ち上げ直前の会議でサ社(サイコオール社)はなぜ打ち上げ賛成に態度変更したのか
IV. 防ぐにはどうするべきか
 (1) チャレンジャー事故の分析から得られる教訓
 (2) 他の大事故との比較
 (3) 技術者の役割
V. まとめ

ここでサイコオール社とは、事故の原因となったブースターエンジンのメーカーである。

このアウトライン第0版を書くことによって、何にフォーカスを当てるかを整理して 考えることが出来る。ここの場合、「どのような教訓が得られるか」から 「事故はなぜ防げなかったか」を考え、それが「打ち上げ決定に至る意思決定」 (具体的には、前日からの気温低下で同様の事故が起こる可能性があることを サイコオール社の技術者は指摘し、打ち上げに反対していたが、NASAとのテレビ会議の 中で意見を覆した。)を調査する必要性を導き出した。

なぜ意見を覆して間違った決定をしたのか、どうしたらそれを防げるのかについて、 更に調査をしたところ、アービング・ジャニスという社会心理学者が主張する 「集団思考」という心理プロセスに行き当たった。それを取り込んで、 アウトラインは次のようになった。

タイトル(仮) 「チャレンジャー号爆発事故から何を学ぶべきか」

I. はじめに (アブストラクト)
 ・ 問題設定 「チャレンジャー号爆発事故はなぜ防げなかったのか」 および 「今後、
    同様の事故を防止するにはどうすればよいか」
 ・ 各節の内容の概要

II. チャレンジャー号爆発事故の概要と背景 (問題の提起と分析)
(1) 事故の概要
 ・ 日時、打ち上げ73秒後に補助ロケットから出火、メインロケットに引火爆発
 ・ 犠牲者のプロフィール
(2) 事故そのものの原因
 ・ 技術的要因 ⇒ 補助ロケットの構造的欠陥 ⇒ 詳細を調べること
 ・ 気象条件 ⇒ 打ち上げ当日の異常低温
(3) 事故の背景
 ・ NASA はなぜ打ち上げを強行しようとしたか

III. 打ち上げ決定に至る意思決定の経緯
(1) 打ち上げ決定までの経緯
 ・ かかわった組織の概要 ⇒ NASA、サイオコール社[ブースター開発企業]の役割分担
 ・ 打ち上げが最終的に決定されたテレビ会議の経過
(2) サ社[サイコオール社]は当初打ち上げに反対していたこと
 ・ 技術者はなぜ打ち上げに対して不安を持つに至ったか
 ・ 技術者による「告発メール」 ⇒ 実物、 ネット上にある? あったら引用して分析
(3) 直前の会議でサ社は突然、打ち上げ賛成に態度を変更したこと
   「サ社はなぜ直前になって打ち上げ賛成に態度変更したのか」
   (問題の再定式化)

IV. 直前の会議での決定変更はなぜ生じたか (主張と論証)
(1) いくつかの仮説の検討
 ・ 事故原因調査委員会の議事録によって仮説を検証
 ・ ここでの結論 ⇒ どの仮説もサ社の突然の方針転換の説明するには不十分。
    会議という集団的意思決定における社会心理学的要因の分析が必要。
(2) 集団的意思決定をゆがめる要因についての社会心理学的研究
 ・ とくに、ジャニスの言う「集団思考(Groupthink)」
(3) サ社の意思決定とGroupthink
 ・ Groupthink の6つの特徴のそれぞれについて、サ社の意思決定経過にそれが当てはまることを確認
 ・ とくに、ランド[サ社の技術者のトップ]の考え方の変化に注目 ⇒ 議事録により検証
 ・ ここでの結論: サ社の最後の意思決定はGroupthink の特質を示している (主張)

V. 再発防止のための提言 (もう1つの問いに対する主張と論証)
(1) チャレンジャー事故の分析から得られる教訓
 ・ 「事故」を防ぐには、技術の精度を高めるだけではダメだということ
     ⇒ 潜在的危機はすでにわかっていた。それが意思決定に生かされなかった
 ・ 意思決定のメカニズムを改善する必要
(2) 意思決定メカニズムはどうあるべきか
 ・ 意思決定メカニズムがGroupthink に陥らないようにするための具体的方策
 ・ 集団的意思決定における技術者の役割
 ・ 技術者がその役割を果たせるような意思決定のシステムはどうあるべきか?
    ⇒ むむむ。 今後の課題?

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このアウトライン変遷を見て、何を思うか?

≪もう1つのアウトラインの例≫

タイトル(仮) 「オランダ『安楽死』法」
I. はじめに
   ・ オランダ「安楽死」法についてのごく簡単な紹介
   ・ 調査の方法について
   ・ 各節の内容
II. 「安楽死」法制定の背景
III. 「安楽死」法の内容
 (1) 安楽死の定義
 (2) どのような場合に安楽死が認められるか
 (3) 認められない安楽死のケース
 (4) 安楽死の方法
 (5) 本人の意思確認の方法
IV. 「安楽死」法制定までの経緯
 (1) 先行する法律はあったのか
 (2) 誰が法案を提案したのか
 (3) どのような議論がなされたか
   ・ 賛成派
   ・ 反対派
V. 「安楽死」法制定以後の経緯
 (1) 判例があるか ⇒ あったら書く
 (2) 社会的影響
 (3) 社会での評価
VI. 他の国における同様の法律との比較
VII. まとめ

アウトライン作成法のヒント(戸山田和久「論文の教室」第5章)

論文・レポートのメインの主張(問い・答え)が決まると、その主張を論証する プロセスを考えることになる。

基本的には、大きな問題を、小さなサブ問題に分割し、それぞれを論証することで、 全体の問題を論証する。サブ問題がまだそのまま論証できないぐらい大きければ、 更にそれをサブサブ問題に分割する。この問題分割を繰返して、それぞれが論証可能な 小さな問題になったら、それを論証すればよい。

どのように分割すべきかは、その問題についていろいろと調査してみないと分からない だろう。そのガイドとして、(戸山田和久「論文の教室」)は2つの方法論を紹介 している。

≪「RPG」法≫

大きな問いを分割するのに、「仮想敵を作る」方法。 結論がわかっているときに使える。

例) 「動物に権利を認めるべきか」に対して、「認めるべき」という結論を導きたいとすると、自分が動物の権利賛成派の使徒となって、行く手に立ちはだかる反対派をやっつけると思い、そのためにはどのような戦略をとるべきかをロールプレイングして考える。

そのとき重要な項目として

たとえば(書いてある例) 「人間も動物も所詮タンパク質の塊なのだから、区別はない。だから片方にだけ権利を認めるのはナンセンス」みたいな理屈は、敵の「人間には権利を認め動物には認めない」という立場を粉砕するには強力だが、副作用として、豆腐にだって権利を認めなければならなくなる。

具体的な検討としては

≪ビリヤード法≫

答が出ていない問いの場合のやり方。 まず「問い」を作って答を考え、そこからアウトラインを作ってゆく。問いをぶつけてゆくのでビリヤード。

《ステップ1》 問いのフィールドを作る
 とにかくたくさんの問いをぶつけてみる。
 (例) 「学力低下問題について論じよ」(下記の表)
  キーワードに問いをぶつけて、新しい問いを取り出す。

ぶつける問い取り出される問いの例
本当に?[信憑性]学力低下と呼ばれる現象は本当に生じているのか
どういう意味?[定義]そもそも学力とは何か/どう定義されているか
いつ(から/まで)?[時間]いつから学力が低下し始めたのか、以前は学力低下論争はなかったのか
どこで?[空間]他の国では学力低下現象は見られないのか
だれ?[主体]誰が学力低下減少を主張しているのか、誰(どの層の学生)の学力が低下しているのか
いかにして?[経緯]どのような過程で学力が低下していったのか(急に、徐々に)
どんなで?[様態]学力低下の現状はどうなっているのか
どうやって?[方法]どうやって学力低下現象の存在を確かめたのか
なぜ?[因果]学力低下の原因は何か?
他ではどうか?[比較]教科によって学力低下に違いはあるか、地域によって学力低下に違いはあるか
これについては[特殊化]このケースは学力低下現象なのか
これだけか?[一般化]学力以外の能力も低下しているのではないか
すべてそうなのか[限定]すべての科目で学力低下があるのか
どうすべきか[当為]学力低下にどう対応すべきか

《ステップ2》 「問いと答え」のフィールドへ
 ・ 思いつくだけの答えを書く
 ・ 答えでなくても、どう調べたら答えが出そうかのアイデアを書き込む
 ・ 細かいサブ問題に分割した方がよいときは、それを書く
 ・ 答えに対して更に問いをぶつけて生じる新しい問いを書く
 最初は、なるべく多くの問いを作り出して充実させるのがよい (連想の広がり)

《ステップ3》 フィールドからアウトラインへ
 ・ 抽出した様々な論点(フィールド)の間の関係を、リンクでつなぐ
  (どう関係しているかを整理する)
 ◎ 取り込むものを決め、それ以外のものを捨てる
   論文は論理が一直線(A→B→C→…→D→E)であるから、全てのものを取り込むと破綻する。
 ・ 取捨選択のガイドは
   ・まず、自分が最も関心を持った問いを中心にすえる
   ・その問いを解決するのに関連する問いや話題を、フィールドからピックアップする
   ・更に、自分の能力・時間・資料入手・少しは新しい論点が含まれそうかなどといった観点から選択

【練習問題7】(小山田和久「論文の教室」119ページ)
死刑を存続させるべきか廃止すべきかについては、古くから論争されてきた。 死刑廃止に賛成する論文を書くとしたとき、RPG 法を使って次のことを考えてみよ

  1. まず死刑廃止のための論拠を思いつくかぎり挙げてみよう
  2. 死刑存続派がどのような論拠に基づいて存続を主張するかを予想してみよう
  3. 自分の論拠に、死刑存続派がどのような批判をするかを考えよう
  4. (2)と(3)で予想した死刑存続派の議論をやっつけるには、どのような反論をすればよいかを考えよう

【練習問題8】(小山田和久「論文の教室」126ページ)
127 ページの「学力低下論」の図(下記)から、論文としてまとまりそうな筋道を選び出し、 暫定的なアウトラインの形に作ってみよう。 できれば2種類作ってみること。

p127.png

【宿題】


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